腎臓移植報道の怪(2)
■批判のための批判
中国新聞は社説でこう書いている。
摘出した腎臓の機能が正常に働くなら、本人の体内に戻すのが当たり前だろう。ほかの人の体内で十分機能するなら、最初から取り除く必要はないはずだ。
重大なのは、移植した三件が腎臓がんだったことだ。取り除かなければならないほど重い病気なら、提供を受けた人が「再発」のリスクを持つ恐れがある。本人が納得したとはいえ、危険にさらしていいものだろうか。
今朝のワイドショーでも、専門家が全く同じことを言っていた。オイオイ大丈夫か、そんなことは当たり前じゃないか。これは事実とそのときの判断に対して、時系列を無視した批判のための批判ではないか。
■摘出の妥当性検証
まず、正常な腎臓を摘出したのならともかく、機能しないから摘出したのではないのか。問題にするならこの点をまず検証し、報道してほしかった。その結果、この時点での摘出が妥当かどうかを検証すべきだ、肝心なところがボケている。意見も良いが、まず事実を明らかにして欲しいのだ。
■結果を知って予測を言う矛盾
「摘出した腎臓の機能が正常に働くなら本人の体内に戻すのが当たり前」というが、正常との判断は移植された体内で機能した結果であり、移植された患者が病気の腎臓でも良いというリスクを負ってのこと。摘出前に元の患者がそのリスクを負というのなら、摘出はされていないはずだから、論理矛盾だ。
■いつ再発するか分からない腎臓を戻すなんてゴメンです
そんなメンドクサイ理屈で説明しなくとも、こういうたとえはどうだろうか。神様がいて、「キミから癌で摘出した腎臓が、他の患者の体内で機能したから、一瞬で元に戻してあげるけどどう?」と聞いたとする。私だったら「神様、だって癌だったじゃないですか、いつ再発するか分からない腎臓を戻すなんてゴメンです」と答えるな。
■時系列のゴマカシ
医学知識が有る無しに関わらず、ちょっと考えれば分かることなのに、どうしてこういう子供だましみたいな、時系列とその時の条件を無視した記事を書いたりコメントするのだろうか。
■理解できない論理構成
さらに「提供を受けた人が「再発」のリスクを持つ恐れがある。本人が納得したとはいえ、危険にさらしていいものだろうか。」とは一体全体、どういう論理構成なんだろう。TVのコメンテーターや専門家も同じ事を言っていたから、これが標準的意見なのかも知れないが、到底理解できない。
■移植するなは殺人未遂
「再発」のリスクより、移植しなければ確実に死ぬから、生きるかもしれない可能性にかけたのだ、そんなことも分からないのだろうか。移植がいけないなら代案を出せと言いたい。いったいどうやってこの患者を救うというのか。私が患者なら、関係ない第3者が手続き論を振りかざし、生き残る道を閉ざしたことを殺人未遂で訴えるかもしれない。
■具体的倫理違反とは?
また、倫理的に問題があるような批判も良く分からない、具体的にこの医師の取った処置、行動の何処が倫理に反するのか。「倫理委員会にかけていない」からといえばいかにも倫理に反するかのような印象だが、ソレでは単語に反応し、文章を理解していない。
倫理委員会が審議して初めて倫理違反か否かが見解として出されるのであって、審議していないものは分からないからだ。単なる手続き違反に過ぎない。単なるとは、そもそも倫理委員会にかけなければ本当にいけないのだろうか、臓器移植学会に属していなければ、違反ではないだろう。いづれにしても、ネット上で手当たり次第に関連記事を読んだが、倫理的に何が良くないのか、全く書かれていない。どの記事も横並びで手続きの話ばかりなのが不可解だ。
■何故無い患者の声
さらに不可解なのが、肝心の患者の話が無い。取材してないのだろうか。腎臓を摘出された患者や移植された患者はどう思っているのか。一番肝心なところが抜けている。そんなに難しいことなんだろうか。それとも、患者の声を書くと都合でも悪いのだろうか。
■批判と批判への疑問点を整理してみよう
① 【機能が正常に働くなら、本人の体内に戻すべき】→摘出の妥当性を検証すべき。戻せる腎臓なら最初から手術の必要は無いはず。
② 【病気の腎臓を移植したのは危険だ】→死ぬより生きる可能性にかけたはず。ダメなら代案は?
③ 【倫理委員会にかけていない】→違法性の検証は?倫理的な問題点とは具体的に何?
■万波誠医師イジメ?
このように、この医師への批判は、何がいけなくて如何すべきかがサッパリ分からない。「病気の腎臓」→「危険」という単語に反応し、全体観と問題の優先順位が全くない。結局のところ、宇和島徳洲会病院・万波誠医師をやっつけることが目的で、手段としてこの問題を持ち出したような印象を受けてしまうのだ。
冒頭述べたように、この事件に関して報道されたこと以外何も知らない。だからせめて、記者の印象や考えばかりではなく、具体的な違反や患者のインタビューなど、事実報道をしてほしい。各社横並びで、印象操作のような記事では、これも闇の将軍様のお怒りかと穿ってしまうではないか。
これも全くの想像だが、闇の将軍様の怒りをかったのなら、そろそろしょっ引かれるだろう。だが、件の医師は薬事制度や国の医療制度を直接批判しているわけではないから、経済的な影響はあまり無く、将軍様の関心外ではなかろうか。もっぱら、この医師が、臓器移植学会に属さず、談合に参加しないために医療業界から嫌われているのではなどと妄想がふくらんでしまうのだ。
何も情報が無い中、かくも万波誠医師の味方をするのは、藤田東吾氏に川崎市が手続きばかりを問題にし、核心から遠ざけていたこととダブルからというのもある。藤田東吾氏も万波誠医師も自然体で自分の職責に基づく話を淡々と述べていて、しかも矛盾が無いからだ。 以上。
明日は、壮大なる茶番劇「世界史履修漏れ」について。
| 固定リンク
この記事へのコメントは終了しました。
コメント